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【無断転載禁止】鶏鳴新聞2022年7月5日号   今年上期の鶏卵需給と下期の見通し

JA全農たまご㈱東日本営業本部第1営業部
中田純司鶏卵課長に聞く

 今年前半の鶏卵相場(JA全農たまご東京M基準、1~6月平均)は、前年同期を23円下回る194円となったが、全畜種総平均の飼料価格は一昨年秋からの累計で3万円以上の値上がりとなり、養鶏用はさらに大幅な、未曾有のコスト上昇に見舞われている。前半を振り返りながら、後半の需給見通しや対応すべき課題を、JA全農たまご㈱東日本営業本部第1営業部鶏卵課の中田純司課長に聞いた。

適切な価格転嫁が必須
業界一丸となって実現を

 ――新型コロナウイルス禍による消費動向の激変に、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う飼料原料価格の一層の高騰、130円を超える急激な円安などが加わり、国内の鶏卵産業はかつてない危機下にありますが、まず、今年前半の相場(全農東京M基準)と需給を振り返っていただけますか。

関係者の協力で需給は堅調に推移

 中田課長 1月5日の初市は、前年を20円上回る140円でスタートしました。全体の需給バランスとしては、後述の様々な要因により大きな荷余り感もなく、1月以降堅調に上伸していきました。
 生産面の基調としては高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の大きな被害を受けた前年からの羽数の回復があるため、1~4月の成鶏用飼料出荷量は前年比102.9%と、前年より3%ほど増えています。ただし20年比では99%、19年比でも99%と、わずかに減少しています。
 鶏卵生産量も同様に、前年比では上回っているものと推定され、年初は新型コロナウイルスによる消費への悪影響も続く中で需給緩和も懸念されましたが、1月5日に発動した成鶏更新・空舎延長事業(対象期間は前年の12月6日から、食鳥処理場への申請を済ませたロットについては事業が終了した1月24日の30日後に当たる2月23日まで)の処理羽数は約419万羽となりました。生産者の皆様と関係各位の同事業へのご協力と、生産抑制への取り組みが、年初の需給改善に大きく寄与したと考えております。
 2月以降も飼料費や諸資材、輸送費の高騰などが相次ぎ、生産環境はさらに悪化しました。特に飼料価格は、1~3月の全畜種総平均2900円の値上げに次いで、4~6月も4350円の値上げとなり、この時点で一昨年10~12月期からの上昇幅の累計は2万1450円となりました。生産コストの急騰により、販売価格の上昇なくしては再生産ができないことから、換羽誘導や早期アウト、一部ロットの削減などによる減産や生産調整を余儀なくされる環境となっています。
 消費面では、まん延防止等重点措置が3月21日に全面解除され、家庭消費にやや落ち着きがみられた一方、外食関係の需要回復がみられました。
 まず家庭消費については、総務省統計による1~4月の家計消費量は前年同期比97.5%と前年を割り込んだものの、コロナ禍前の19年比では104.9%、18年比でもほぼ同様のプラス水準で依然、平年を上回っています。変化した生活様式は、完全に元通りには戻っておらず、テーブルエッグの需要は堅調に推移しています。
 加えて外食関係については、日本フードサービス協会による5月単月の全店ベースの売上高は前年同月比で120.4%、コロナ禍発生前の19年同月比でも95.4%まで回復しました。ただし、業態によって大きく明暗が分かれており、ファストフード業態に限ると19年同月比で108.2%と、コロナ禍前を上回っているのに対し、パブ・居酒屋業態は同54.7%、ディナーレストラン業態も同89.2%にとどまっています。
 前述のまん延防止措置の解除により、観光需要にも一定程度の回復がみられています。鶏卵需給は例年、ゴールデンウイークが明けると緩む傾向がありますが、今年は観光地や全国各地への旅行者も多く、この間、首都圏の需要は少し鈍ったものの、連休明けの荷余りは限定的でした。4月前後には、西日本で鶏卵が不足する状況もみられました。
 こうした需給環境により、相場は4月26日から5月27日まで、今年前半の最高値220円を維持しました。その後も、下げ幅は例年に比べて小幅にとどまり、6月中の下押しは215円から5円下げた16日の1回のみで、7月11日に再び5円の下押しで205円となり、現在に至っています。
 ――しかし、7~9月の飼料価格の上昇幅は未曾有の1万円超えとなり、一昨年10~12月期からの累計の上昇幅は3万2850円に達しました。年後半の需給面の見通しは。

より供給が増えにくい市場環境に

 中田課長 7~9月の全畜種総平均の飼料価格改定額1万1400円は、高騰に次ぐ高騰となり、まさに異常事態となっています。
 生産現場は現在、卵をつくればつくるほど赤字となる厳しい状況に置かれており、やむを得ずロットの削減や、農場の閉鎖などの動きもみられるようになっています。
 長期的な設備投資計画の中で、新しい鶏舎の導入に伴い飼養羽数が増える見込みの産地もありますが、増羽意向は極めて少なく、1~5月の全国のえ付け羽数は前年同期比98.5%となっています。前年同期も20年前半に比べて少なかったため、前々年比では93.5%と、2年前より6.5%少ない水準です。
 やはり、飼料だけでなく諸資材費、エネルギー・燃料費、人件費、輸送費まであらゆるコストの、あまりに急激な上昇による産地の生産意欲の減退や経営環境の悪化が、え付け羽数の数字にも表れているとみています。
 このほか供給量に関連する数字として、殻付卵の輸出については、3~4月は月間3000トンを超える水準で堅調に推移しました。5月は主要輸出先の香港での荷余り感もあって約2400トンとなりましたが、1~5月の月間平均は前年に比べて約600トン増えています。通関実績を基にした香港での現地価格は、中国産や米国産などと比べて2倍程度高いですが、日本産のブランドが確立できているとみられ、香港市場における日本産のシェアは拡大してきています。
 輸出については、まだまだチャンスは大きいとみており、今後は飲食店向けの卵についても、さらに日本産が浸透できるよう取り組んでいく必要があると考えています。
 一方、加工卵の輸入については、昨年の日本での高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)発生に伴う供給減を補うため、前年を上回って推移してきたところですが、今年前半は主要輸入先の米国と欧州でHPAIが大規模に発生し、各国の加工卵の価格が高騰しています。穀物高も世界共通の課題であり、為替も大幅に円安に振れていることから、輸入は拡大しにくい環境となっています。今後、為替の影響などが加わって国内価格がさらに上昇すれば、輸入量は今後、さらに減少していく可能性があるとみています。
 これらの供給面の見通しから、鶏卵相場は需要期を控えた秋口から、例年より強い上昇力を持つとみています。ただし、成鶏用飼料出荷量は前年を上回って推移しており、後述の需要面も考慮すれば予断は許さない情勢です。
 需要面のうち、足元の小売り需要については、急激に暑くなったことから、やや鈍っています。ただし、これは季節性の一時的なもので、秋口には回復するものと見込んでいます。
 加工需要については、大別して業務用向けと小売り商品向けに分けられると思いますが、小売り商品向けの需要は好調に推移しています。製菓・製パンメーカー各社は段階的に価格改定を実施されていますが、大幅な買い控えは起きておらず、コンビニ向けの小玉や、パンや菓子などに使われる液卵のいずれも堅調と聞いています。
 外食需要については、前述の通りまだ19年並みには回復しておらず、業態によっては今後も大幅に下回る状況が続くことが危惧されます。行楽需要については、地域の消費を喚起する県民割や都民割などは始まり、確実にプラスになるものと思いますが、7月中の開始を予定していた「全国旅行支援」(県民割の全国版)は延期となるなど、不透明な状況が続いています。
 インバウンド需要についても、コロナ禍前の19年には1日当たり9万人弱が入国していましたが、現状はその22%に当たる2万人に制限されています。少しずつ回復することが期待されますが、当時の水準に戻るには、まだ時間がかかるものと予想されます。
 ――こうした環境下で喫緊の課題は。

業界の一致協力がより重要な局面

 中田課長 飼料だけでなくあらゆるコストが上昇する中、この危機的状況を打破するためには、これらのコスト上昇について実需者に対し理解を求め、市場価格に反映させることが急務と考えています。何より、生産コストを割り込む販売価格では事業継続は不可能であり、適切な価格転嫁が必須です。そのためには業界一丸となっての協力が、より必要な局面であると感じており、関係者の皆様のお力を借りながら、実現しなければならない状況です。
 特に現在のコストとのギャップが大きくなっている様々な固定価格の商品については、実際に値上げが徐々に始まっており、POSデータにも反映され始めています。全農たまごも昨年来、高騰する生産コストに対して価格転嫁の取り組みを進めていますが、4月28日には「しんたまご」などの価格改定について、2008年以来14年ぶりに改めてニュースリリースとして発表させていただきました。
 値上げに伴う一時的な需要減は、様々な商品で多少表れているものの、長く継続するものではなく、全体的な価格水準が上昇することで、着実に戻ってくると考えています。小麦粉など必需品の値上げでは、大幅な買い控えにはつながっておらず、卵についても価格が一度に2倍、3倍となれば、消費に大きな影響が出ると考えられますが、鶏卵1パックに対し数十円程度の値上げについては、一時的な販売減があるとしても「どこに行ってもこの価格」と、消費者の認識が変わってくることで、最終的には価格水準を引き上げた状態で、需要は維持できるものと考えています。
 同時に、消費拡大のための活動はどのような局面でも重要であり、香港を中心に一層の輸出拡大を図るとともに、国内についても様々な取り組みを通じて、消費拡大を進めていきたいと考えています。
 ――ありがとうございました。

鶏鳴新聞

鶏鳴新聞
2022年7月28日

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