国際養鶏養豚総合展2024(IPPS)初日の4月24日に開かれた特別講演会では、JA全農たまご㈱東日本営業本部第1営業部の寺本直人部長が「2024年の鶏卵を取り巻く情勢」について講演した。
寺本氏は、国内の鶏卵需給の推移と傾向について詳しく解説したうえで、昨年(2023年)の鶏卵市場の規模について、まだ農水省の統計は発表されていないが、未曾有の鳥インフルエンザ発生により生産量は244万トン、相場(全農たまご東京M基準)は306円となったことから、単純計算で7000億円を超えたと推計されることを説明。
しかし、今年(2024年)の市場規模については、稼働羽数は1300万羽程度戻ってきたとみられ、生産量は昨年より10万トン程度増えると見込まれる一方、需要は戻り切っておらず、相場が同日時点でも220円にとどまっていることから、再び5000億円前後に戻ってしまう情勢となっていることを解説した。
需要減の状況については「特に加工メーカーが苦しんでいる。復活に向けて様々に動いていただいているが、安定供給とコストの観点から、なかなか卵商材を積極的に活用できない方向性がみられている」とし、鶏卵相場が均衡している今年1月と22年2月の稼働羽数の差から、年間で532万7000羽(鶏卵に換算すると約9万7000トン)分の需要が失われた可能性があることを示した。
活況が報じられているインバウンド需要については、仮に22年の数値を用いて外国人の入国者数2507万人(平均滞在日数7.2日)から日本人の出国者数962万人(平均滞在日数5.0日)を差し引き、1人1日当たり鶏卵消費量をMサイズ卵1個とすると、鶏卵需要の純増は年間8076トンとなることを紹介した。
生産現場の状況については、飼料価格は4~6月期は値下がりとなったが、補てんの影響を除いた生産者の実質負担は今年1~3月がこれまでで最も高くなっていたことを指摘。今後も大きく下がる気配はない中で、相場は再生産可能な水準を下回っていることから「今後も、飼料を含めたあらゆるコストが高止まりする可能性があり、このままでは生産調整や生産意欲の減退、さらには生産基盤の弱体化につながることが懸念される。縮小した需要の回復が必要となっており、鳥インフルエンザやアニマルウェルフェアの対策も含めて、持続可能な事業の確立が必要な経営環境となっている」と述べた。
消費者の間で「卵は値上がりした」と認知されてしまっていることについては、1970年から現在までの消費者物価指数の推移をみると、卵の価格上昇率は食品全体の約半分にとどまっており、まさに「物価の優等生」と報道されてきたような状況にあることを説明。そのうえで、比較する期間を2021年から現在までの約3年間に限定すると、価格上昇率は食品全体が15.2%、卵が37.9%となり、卵の値上がりが突出して大きく見えていることを解説した。
鶏卵産業の中長期的な展望については、1人当たりの消費が拡大しなければ、総人口の減少に伴い2040年の鶏卵需要は現在より約18万トン減る見通しとなっていることや、こうした情勢下で今年の生産量は昨年より10万トン増える予測となっていること。さらに「現在の鶏卵生産量を維持するためには、2040年の1人当たり鶏卵消費量を400個に伸ばす必要がある」とのたまご知識普及会議の試算も改めて示したうえで、「良質なたんぱく源、低糖質、コリンの供給源といった、卵が持つ基本的な特性を活用した継続的な消費拡大とともに、短期的には需要に見合った生産量への調整、中長期的にはエリア別で継続的な消費拡大活動に取り組みながら、皆様の力で着実に6000億円、さらに7000億円の市場規模が継続できる持続可能な産業へと発展させていきましょう」と述べた。