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【無断転載禁止】今年上期の鶏卵需給と下期の見通し JA全農たまご㈱東日本営業本部第1営業部鶏卵課 水本拓哉課長に聞く 当面は需要に見合った生産調整が必要 消費拡大活動も積極的に

鶏卵産業は近年〝歴史的な危機〟に毎年のように見舞われているが、今年も飼料高騰や高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の余波で、産地はコスト割れ、販売現場は需要低迷に直面。1~6月の鶏卵相場(JA全農たまご東京M基準)は、前年同期を132円下回る201円にとどまった。このような今年前半の鶏卵需給を振り返りながら、後半の見通しと課題を、JA全農たまご㈱東日本営業本部第1営業部鶏卵課の水本拓哉課長に聞いた。

 ――今年前半の鶏卵相場は、200円前後でもちあいが続く、極めて安定した推移をみせています。ただ、販売現場は昨シーズンのHPAI発生時から消費が戻り切らず、生産現場は飼料費の高騰により、販売価格が生産原価を割り込むという、大変厳しい経営環境となっています。生産・販売の両面から、今年前半の鶏卵需給を振り返っていただけますでしょうか。

羽数は回復したが需要は回復せず
 水本課長 まず生産面ですが、農林水産省が3月に発表した統計によりますと、昨年の鶏卵生産量は前年より約16万トン(6.1%)少ない約243万7773トンまで減少しました。
 これは、昨シーズンのHPAIで採卵鶏約1654万羽が殺処分された影響によるものですが、このうち1300万羽程度が既に、今年5月ごろまでに回復したとみられています。
 (一社)日本種鶏孵卵協会の「鶏ひな孵化羽数データ収集調査結果」やHPAI発生に伴う淘汰羽数、成鶏更新・空舎延長事業への参加羽数などを基にJA全農たまごが試算した、5月の全国の採卵鶏飼養羽数は、2022年12月以来17か月ぶりに、1億3000万羽台に復帰しました。7月時点の同羽数は、1億2588万羽前後と推定しています。
 近年は災害も増えていますが、今年は1月1日に能登半島地震が発生し、多くの生産者や関係者が被災しました。JA全農たまごでは被害を受けた生産者らに、代替原料卵の緊急送り込み調整などのサポートを実施したところです。
 直近では急激な気温上昇により、各地で鶏の熱死被害も報告されています。ただ、生産者の方々の対策も進み、現在のところは、記録的熱暑により鶏卵需給にも大きな影響が出た2013年の時のような、大きな被害にはなっていません。
 HPAIについても、世界では夏場も発生するようになっており、日本でも今年は4月末まで発生をみるなど、季節を問わず予断を許さない環境となっています。しかしながら、生産者の皆様のより厳格な衛生管理への取り組みや、一層の防疫体制の強化などもあり、シーズン中の採卵鶏の被害は9件、約79万羽にとどまっており、昨シーズンに比べると、大幅に少なくなっています。
 このように、今年前半の生産動向は、全体的には安定していると言える状況となっています。
 ――一方、販売面は。
 水本課長 足元の売り上げは、かなり低迷しています。
 まず加工関係では、液卵や鶏卵加工品の使用量が抑制された状況が現在も続き、需要は昨シーズンに比べて減少したままとなっています。
 これは、昨シーズンのHPAI発生時に、家庭用も含め鶏卵の供給が制限されたために、食品メーカーや外食企業など、多くの加工卵ユーザーが鶏卵不足への対応に苦慮し、卵の使用量を減らすためのメニュー変更や原材料の見直しに踏み切ったことによるものですが、ユーザーの視点から今シーズンもHPAI発生により同様の事態が生じるリスクがあるとすれば、加工卵需要は、今後も戻りにくい状況が続くとみられています。
 こうした加工需要の減少の影響は大きく、供給過多の大きな要因となっています。
 量販店については、昨年と比べて値下がりした商品が店頭価格にも反映され、特売なども一部再開となり、荷動きは昨年と比較すれば良かったかと思います。しかし、供給過多の需給状況に変化はみられず、直近では豪雨や猛暑もあって消費が減退する中、供給が需要を上回る展開となり、末端への価格競争が激しさを増しております。
 また売価が下げ傾向となっても数量は大きな増加が見込めない、非常に厳しい販売環境となっています。
 唯一良いと言えるのが外食関係で、円安を背景としたインバウンドの増加と、観光需要の回復がけん引材料となっています。大手ファストフード各社では、卵を使った季節限定商品が復活してきており、秋にも恒例のプロモーションが実施される見込みです。
 (一社)日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査による1~6月累計の外食全体の売上高は前年同期比9.5%増、利用客数は同5.3%増となっており、今年前半は業種を問わず金額・客数ともに前年を上回る推移が続いています。
 インバウンドについては、日本政府観光局が発表した6月の推計訪日外客数は単月として過去最高の313万5600人に達し、4か月連続で300万人を超えて推移しています。訪日外国人の増加傾向は、現在の為替状況が続く限り衰えることはないとみられており、年間では2019年以来の3000万人超えへの期待も高まっています。
 ただ、インバウンドによる鶏卵需要への影響については、4月の国際養鶏養豚総合展(IPPS)で当社東日本営業本部第1営業部長の寺本が述べた通り、仮に22年の数値を用いて外国人の入国者数(2507万人、平均滞在日数7.2日)から日本人の出国者数(962万人、同5.0日)を差し引き、1人1日当たりの鶏卵消費量をMサイズ卵1個とすると、鶏卵需要の純増は年間8076トンにとどまると試算されています。
 一方、国内の総人口は今年1月1日の時点で、1億2488万人あまりとなり、前年より約53万人減少しました。仮に1人当たり消費量を国際鶏卵委員会(IEC)統計の2022年の数値に準じて339個とすると、重量に換算して約1万1000トン、羽数にして約60万羽分の需要が、昨年1年間で失われた計算になります。人口推計からは、今後は毎年、この規模で需要が減少していく見通しとなっています。
 さらに今夏は、気象庁が「10年に一度の暑さ」に警戒を呼び掛け、各方面から不要不急の外出を避けるよう注意喚起がなされるような猛暑となっており、消費者がどこまで外食に来てくれるかも、不安材料となっています。
 このように消費動向については、総じてあまり良い材料が見受けられない状況となっています。
 ――これらの需給環境が、今年前半の鶏卵相場に表れているのですね。

大玉高、小玉安の傾向強まる
 水本課長 そうですね。今年の鶏卵相場(JA全農たまご東京M基準)は初市180円でスタートし、4月初旬の時点で220円まで上昇しましたが、5月の大型連休明けには下落に転じました。5月13日に今年2回目の成鶏更新・空舎延長事業が発動したものの、なかなか再生産可能な相場水準まで上昇できない展開が継続しています。
 サイズ間では、成鶏更新・空舎延長事業の発動と、暑熱による卵重低下により、卵重が中小玉にシフトし、大玉の供給が減少しているため、相場は大玉高の傾向にあります。
 今後も、生産調整の影響に加えて、猛暑によるサイズの小型化や産卵率の低下が見込まれるため、当面は大玉高・小玉安の展開が続くと想定されます。
 ――成鶏更新・空舎延長事業については、今年は2回発動し、合わせて1000万羽以上の参加があったとのことですが。
 水本課長 23年度の2月1日から26日までの発動で約470万羽、24年度の5月13日から6月24日までの発動で約640万羽の参加があったと聞いており、今年前半は生産者の方々の同事業への積極的な参加により、大幅な需給失調が避けられていると認識しています。
 ただ懸念しているのは、2月の発動時の淘汰鶏が、今このタイミングで戻ってきていることです。7月下旬時点の同事業による減少羽数は170~180万羽程度と推定されており、さらに鶏の再導入は今後も進む見通しとなっています。
 ――空舎延長事業では、5~6月出荷分の600万羽以上の鶏も秋以降に、再導入されてくることになります。一方需要面は、仮に加工関係の需要減を2割、国産卵の加工仕向け割合を3割とすると、全体の需要はこれだけで前年より6%減っていることになり、人口減や猛暑の影響も加味する必要があります。つまり今年は後半も、現在の需要減に対して生産減が追いつかない、いわば供給が先行する形での相場展開になる可能性が懸念されるのですが。

通年でコスト割れが危惧される情勢
 水本課長 前述の日本種鶏孵卵協会の統計によると、採卵鶏ひなのえ付け羽数は1~5月の累計では前年を5.5%下回っているものの、2023年のえ付け羽数は102.4%と増加していました。え付け羽数などから試算した、今年後半の全国の成鶏飼養羽数は、成鶏更新・空舎延長事業からの復帰もあり9月には約1億2980万羽、10月には1億3000万羽台に達し、年末の12月には約1億3456万羽にまで増える見通しとなっています。これは、昨年の2023年12月の推定飼養羽数を、約700万羽上回る水準となっています。
 これらの統計数値から、今年の鶏卵生産量は前年より6万トン程度多い、250万トン前後になると推計しています。
 一方需要面では、前半でお話しした通り、家庭消費と外食が堅調に推移したとしても、加工需要の回復は依然、HPAIの発生リスクから厳しい状況が予想されます。
 このような現時点の生産・販売予測から、一昨年シーズンのような、大規模なHPAI発生などがないことが前提ではありますが、今年後半も厳しい相場展開になることが危惧されます。生産者の方々には今も、生産原価を割り込む販売環境で国産卵の生産を続けていただいている状況となっていますが、現状の相場見通しでは年末にも250円台に達することが難しく、2024年は年間を通じて生産原価を割り込んだ相場水準となる可能性が高い情勢となっています。
 ――必要な対応は。

生産抑制と価値発信の両輪の対応を
 水本課長 様々な機会を通じて発信しているところではありますが、鶏卵産業を持続可能な産業へと発展させていくためにも、生産者の皆様には、当面は需要に見合った生産調整をお願いするとともに、前述の人口減など長期的な展望も踏まえて、鶏卵の魅力の啓発や消費拡大活動に、引き続き積極的に取り組んでいく必要があると考えています。
 JA全農たまごとしても、8月1日から9月30日までの予定で企画している「たまニコチャレンジ」や、(一社)日本養鶏協会、(一社)日本卵業協会、キユーピータマゴ㈱と当社が参画している、たまご知識普及会議の活動などを通じて、卵が持つ高い価値を発信する取り組みを継続し、少しでも消費の拡大と回復に努めていきたいと考えています。
 ――ありがとうございました。

鶏鳴新聞

鶏鳴新聞
2024年8月15日

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