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【無断転載禁止】鶏鳴新聞2023年7月25日号   今年上期の鶏卵需給と下期の見通し

JA全農たまご㈱東日本営業本部第1営業部鶏卵課
中田純司課長に聞く
業界挙げた消費喚起
需要回復の取り組みが必要に

 飼料価格の急騰による経営危機と、未曾有の規模での高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)発生による需給の大混乱を経て、今年前半の鶏卵相場(JA全農たまご東京M基準、1~6月平均)は、前年同期を139円上回る333円となった。23年の折り返し地点を迎え、前半の鶏卵需給を振り返りながら、後半の見通しや課題を、JA全農たまご㈱東日本営業本部第1営業部鶏卵課の中田純司課長に聞いた。

 ――昨年のインタビューでも冒頭の質問で「かつてない危機…」と申し上げましたが、今年もかつてない規模でHPAIが発生するなど、本当に国内の鶏卵産業はこの3年間、歴史的な激動を経験していると思います。

外的要因に翻ろうされ続けた3年間
 中田課長 振り返りますと、2020年は新型コロナウイルス禍が発生し、生産面と家庭消費は堅調に推移した中、業務・外食関係の需要が大幅に減ったため需給は失調し、8月前後の相場は145円まで低迷しました。秋以降はHPAIが当時の過去最大規模で発生し、採卵鶏は翌21年3月までに育雛・育成鶏を含めて約900万羽が殺処分されるに至り、21年初から需給のひっ迫感が東日本でも強まり始め、相場は5月から6月にかけて260円まで上昇しました。
 ――当時も多くの関係者が、対応に極めて苦慮しました。
 中田課長 これを乗り越え、21年の年末には何とか生産の回復がみられましたが、需要が伸び悩んだため、22年初にはまたもや需給失調に近い状況となり、成鶏更新・空舎延長事業が発動しました。HPAIも5月まで発生があり、採卵鶏はシーズン累計で約130万羽の被害となりました。
 さらに22年の中頃には、穀物生産国の作柄悪化やロシアによるウクライナ侵攻を契機に、飼料価格の高騰が顕在化しました。22年7~9月期の飼料価格は全農の全国全畜種平均で同1万1400円値上げされ、上昇幅は21年初からの累計で3万1500円に達しました。生産現場は、出荷するほど損失が増えるという危機的な状況となり、生産抑制を余儀なくされたことでえ付け羽数が減少したため、22年後半にかけて鶏卵需給は持ち直し、相場も10月中旬時点で240円まで上昇していました。
 ――経営環境の急激な悪化に伴い、22年のえ付け羽数は前年を約600万羽下回っていました。このようなタイミングで、10月下旬からHPAIが過去最大規模で発生したということですね。

生産抑制のタイミングでHPAI
 中田課長 大幅な飼料高騰により生産意欲が減退していた中、HPAIにより採卵鶏は今年4月までの累計で約1654万羽を喪失し、生産が需要を大幅に下回る状況となりました。
 量販店では品不足となるなど、需給は大きく混乱し、外食やコンビニエンスストア大手各社では、卵を使ったメニューや商品の量目変更や販売休止が相次ぎました。帝国データバンクの5月の調査では、上場外食大手100社のうち29社が卵メニューの休止や休売を実施または表明したと回答しています。
 生産者の方々は、防疫対策に日々取り組まれながらも発生原因がはっきり特定されない中、いつ自分の農場で発生してもおかしくないという強い緊張感が続く環境下に置かれ、鶏卵製品の販売現場もコロナ禍による需要減から脱しつつあった矢先に、欠品や販売数量調整が相次ぎ、需要を抑制せざるを得ないという、非常に苦しい状況となりました。さらに流通のほか川下の食品メーカーなどユーザー全体においても、いつ供給が減ったり止まったりするか分からないという、非常に不安定な日々が続きました。
 ――こうしたことから今年前半は、全国各地の関係団体から行政に現場の状況を伝え、対応の改善を求める動きが相次ぎました。

安心で営める産業にしなければならない
 中田課長 今年前半の経験からは、本当に後継者育成の必要性も含めて、養鶏業を持続可能な産業にしていくためには、何とかHPAIの発生を抑え、コントロールできる状況にしていただき、養鶏業をより安心して営めるようにしなければならないと感じています。消費者も含めて卵にかかわるすべての方々が影響を受けており、関係者全員が供給回復に取り組んでいますが、鶏卵生産量は現状の予測でも年内には回復せず、HPAI発生前に戻るのは来年春ごろとみています。
 今後再び同規模のHPAIが発生すれば、本日申し上げている予測なども崩壊し、後述するような需要喚起に取り組むという次元ではなくなってしまいます。生産者の方々の体力や精神力にも限界があり、発生すれば売り上げも雇用もなくなってしまうという経営環境リスクも依然、継続しています。
 ――影響は政府の統計にも表れています。
 中田課長 安定供給を求められている加工関係では、やむを得ずブラジルなどから殻付卵を輸入する事態となりました。財務省貿易統計による今年5月の殻付卵輸入量は1231トン、うちブラジル産が1025トン、タイ産が197トンとなり、1~5月の累計は前年同期比75倍増の2111トン、うちブラジル産が1680トン、タイ産が405トンとなっています。ブラジルのHPAI発生も心配な状況ですが、この動きは一定程度継続するとみられています。
 殻付卵の輸出も、22年1~12月の累計では3万トンを超えましたが、11月以降は相手国の輸入停止により減少傾向が顕著となり、23年1月には1000トンを割り込みました。5月には1606トンまで回復しましたが、HPAI発生前の月間平均2500トン前後の水準には戻っていません。6月20日には国際獣疫事務局(WOAH、OIE)のウェブサイトに清浄化宣言が掲載されたため、今後の回復が期待されます。
 コロナ禍により底上げされていた家庭消費も、HPAI発生後は急減し、総務省統計による鶏卵の家計消費量は昨年11月以降、前年割れが続いています。今年3月以降はコロナ禍前の実績を割り込み、1~5月の累計では前年同期比マイナス8.2%に落ち込んでいます。ただ、この消費については、供給回復とともにぜひ回復させたいと思っています。
 ――今年は幅広い分野で物価が上昇し、消費者の節約志向も強まる中で、多くのメディアが卵の値上がりを盛んに報道しました。これらの影響もあったのではと思います。

現状の値上がり幅でもニーズは強い
 中田課長 卵の価格上昇による需要減は、ゼロではないと思います。ただし、主因は鳥インフルエンザによる供給減とみており、卵以外の各食材も値上がりしている中で、現状の店頭価格の上昇幅で家庭消費のニーズが急激に落ちたとはみていません。これだけ生産コストが上がっている中では、元の価格に戻さなければ需要は回復しないといったことも全く考えていません。
 お盆くらいまでは暑さとともに、季節性の需要減退が続くとみられますが、ある程度供給が戻ってきた時点で、消費自体も持ち直してくると信じています。
 ――外食需要やインバウンド需要、さらに生産回復の見通しについても教えてください。
 中田課長 (一社)日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査では、特にパブ・居酒屋業態は2019年比66%程度と依然、コロナ禍前を下回り、苦戦を強いられています。一方、ファストフード業態の売上高は5月も同121%と極めて好調となっています。さらにお盆以降は〝月見ブーム〟とも言えるような、秋の月見にちなんだメニューがファストフード大手各社に広がってきた印象もあり、季節商品の需要が期待されます。
 卵メニューの休止・休売についても、帝国データバンクの7月の調査では、前述の29社のうち16社が、部分的な再開を含めて卵メニューの再開に動き出していると回答しています。
 インバウンド需要については、日本政府観光局(JNTO)による今年1~5月の訪日外客数はコロナ禍前の2019年の63%に相当する863万8500人となり、直近の5月は同69%まで回復しています。一方、日本人の出国者数は同36%の291万1000人にとどまっており、今後も円安が追い風となって、日本国内の観光需要の増加が期待できる状況となっています。
 HPAIの被害を受けた農場については、農水省が発表していますが6月末ごろまでに累計で400万羽程度が再導入され、一部のロットでは産卵が始まっています。全体的な生産状況についても、気温の上昇によりサイズが小玉にシフトし、小玉から徐々に生産回復に向かっていることから、鶏卵相場は6月26日に全サイズで5円下押しし、さらに7月3日に5円、6日に10円、13日に5円、18日に10円下がり、7月20日現在は315円となっています。
 ただ、再導入された400万羽という羽数は、まだ失われた総羽数1654万羽の2割強にとどまり、初生雛も含まれていることから、北海道などの地域や商品によっては顕著な不足や販売数量制限も継続しています。今年の鶏卵生産量は平年を大きく下回る見通しで、全国の生産量がHPAI発生前の22年以前の水準に戻るのは前述の通り今後の発生がない前提で来年春ごろとみています。
 一方、生産コストも飼料・エネルギーから人件費、資材費まで幅広い分野で大幅に高騰しています。飼料価格(全畜種平均)はピークからは5000円程度下がりましたが、21年以前と比べると依然、高止まりしており、為替の円安傾向や穀物生産国の動向をみても、すぐに下がるという見通しはできません。
 ――こうした状況下での喫緊の課題は。

以前の卵価水準では再生産できない
 中田課長 直面する大きな課題は、生産面がHPAIの被害からの回復基調にある中で、需要面は回復が期待される情勢にあるとはいえ、全体のベースとしては、前年同期に比べて依然、大幅に減少していることです。
 今年の秋冬のHPAI発生の有無については誰しも分からないところですが、発生を前提とせずに予測すれば、大幅に不足してきた生産量が今後、徐々に均衡点に向かう中で、生産が現在の需要を上回るタイミングが、どこかで来てしまうと考えられ、失われている需要の回復に向けて、動いていくことが必要となっています。
 こうした諸コストが高止まりしている経営環境下で、需給失調を起こして昨年前半のような価格水準に戻ってしまうと、まずもって再生産が難しくなってしまいます。米国では卵価が極端に低迷し、再び生産意欲が減退して増産傾向が鈍化するとの見通しも出ているようですが、日本では下期以降の生産動向に注目しながら、需要者に対して今後の供給見通しを前もって、できるだけ正確に伝え、需要回復につなげることが、全農たまごとしての使命でもあると思っています。
 さらに長期的な視点からも、我々の業界は日本全体の少子高齢化や人口減に伴う需要減が予想される中で、たまご知識普及会議やたまニコ運動といった業界全体で取り組まれている消費拡大活動にも積極的に参加して、国内需要を喚起し、まずはもともとあった需要を取り戻していくことが重要と考えています。
 ――ありがとうございました。

鶏鳴新聞

鶏鳴新聞
2023年7月26日

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